JUNONボーイなんか嫌いだ。あのイケメンが逆チョコなどと言い出さなければ、バレンタインデーは女子のお祭りだった。その上、今年の二月十四日は土曜 に当たる。だから当然、俺のようなバツイチのオジサンには関係なく過ぎていくはずだったのだ。…………が、俺には嬉しいことにそのイケメンと同じ年頃の恋 人がいて、コマーシャルに感化された彼が『俺も宮城も男だろ。だから、一緒に作るのはどうだ?』などと言い出すものだから、折角の週末を愛する古書の匂い ではなく、甘ったるいカカオの匂いの中過ごす羽目になってしまった。
まあ、実際に作業をしているのは忍で、俺は開いたノートパソコンでレシピを探し、時々それを読み上げてやっているだなのだが。

「なあ、宮城。こんなんでいいのか?」
「俺に聞かれてもな……」

生クリームと蜂蜜を火に掛け、沸騰したらコンロから外し、刻んだチョコレートを入れて掻き混ぜる。材料はきっちり計ったし、手順もレシピ通りに進めてはいるが、今忍が持つ鍋の中にあるものが果たして正しく出来上がっているのか、尋ねられたところで答える術などない。

「じゃあ、味見してみてくれ」
「俺が?」
「だって、食べるのは宮城だろ」

初めて聞かされる事実に驚く間もなく、鍋が持ち上げられる。味見をしたとてやはり判断できるとは思えないのだが、拒否権を行使するのも不毛に違いなかった(押し問答になるのが落ちだろう)。
一人小さく唸りつつ、エプロン姿の忍がこちらへ歩み来る。その視線は前方ではなく作りかけの石畳チョコに向けられていて、嫌な予感に危ないぞと注意しようとした、正にその時だった。
ああ、幾ら俺が古典を研究しているとは言え、何もこんな場面で古典的なそれを踏襲しなくてもいいだろうに。いや、或いは味見をしてくれと聞かされた時点で こうなる運命だったのかもしれない。忍チンは見事にカウンターキッチンの角に足をぶつけよろめき、咄嗟に立ち上がった俺はどうにかノートパソコンがチョコ レート掛けになることは防いだのだが────────代わりに俺自身が、正確には俺の下半身が、チョコレートフォンデュになってしまっていた。

「……あーあ……」
「わ、悪い、宮城…!」

暫く掻き混ぜていたお陰で鍋の温度が下がっていたのは不幸中の幸いだ。転んだ忍はと言えば、布巾をとりに行くことも浮かばないらしく、ただ床にへたりこん でおろおろとこちらを見上げている。さて、一体どうしたものか。いっそ彼から以前何度も言われた“責任を取ってくれ“という台詞をそっくりそのまま返した いところだが、それは流石に苛め過ぎ……だろうか?






つくねさんありがとうございました><*!!!!オレの下半身がチョコレートフォンデュって!!!!(・д・`*)はぁはぁ・・・
最後の終わり方とかもう・・・もうーーっって感じです!もう、ほんとにありがとうございます!!
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